歳月列車

米国での日常、そして、忘れえぬ日本の思い出

神楽坂の思い出

f:id:kazearuki:20220118022207j:plain

神楽坂は、東京という巨大な街の中でもとても思い出深い場所のひとつだ。もうかれこれ15年くらい前、はじめて東京に長期滞在したときに利用したホテルが飯田橋駅近辺で、神楽坂にもすぐだった。それまで東京には旅行で数回来たことがあるだけで、新宿とか池袋などの主要な鉄道駅周辺の繁華街しか知らなかった。なので、神楽坂の落ち着いた雰囲気はとても新鮮で、坂沿いの小さな路地に迷い込んだりすると、ちょっとワクワクする気分になった。

あの時の滞在を期に、僕は、東京の街をもっとよく知ろうと努力するようになった。暇を見つけては、神楽坂・飯田橋周辺を歩き回った。ここから東に行けば後楽園、この坂を上って西に向かって歩けば早稲田、南は九段下というふうに、あのときの散策を通して僕は東京の街を初めて、新宿、池袋、上野といった単なる点の集合としてではなく、慣れ親しんだ神戸や大阪と同様、大小の無数の点が有機的につながった広大な面として認識するようになった。

神楽坂では、蕎麦のうまさを学んだ。多くの関西人がそうであるように、僕もそれまではもっぱら「うどん派」で、蕎麦とはあまり縁のない生活を送っていたのだが、蕎楽亭で食べた蕎麦がとても美味で、その後東京に来るたびにおいしい蕎麦の店を探した。蕎麦屋で一杯、というのを覚えたのもこの頃だった。

そうそう、ちょっとした縁で知り合い、その後付き合うことになる人(その付き合いは結局短命に終わったのだが)と初めて会って食事したのも、ここ神楽坂だった。坂の中ほどの小さな路地を少し行ったところにある炉端焼きの店だった。僕は、おいしい料理と酒にいつもより饒舌になり、東京という街がどんどん好きになっていくのを実感した。とても愉快な夜だった。