歳月列車

米国での日常、そして、忘れえぬ日本の思い出

北浜慕情

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大阪で一番好きな場所はどこかと尋ねられれば、月並みかもしれないが、北浜と答えるだろう。実際、ここ10年ほど、一時帰国し大阪に滞在するときは必ず北浜に宿を取っている。

太平洋戦争の空襲でほぼ全土を焼き尽くされた大阪であるが、北浜周辺は比較的被害が少なく、よって昔ながらの面影を今も残している。大阪の街の全国的なイメージは、なんばや天王寺の、繁華で雑多なちょっと「ごちゃごちゃ」した風景と雰囲気によって形成されていて、個人的にはなんばも天王寺ももちろん大好きなのだけど、北浜(あるいは、淀屋橋・中之島も含むもう少し広い界隈)の見せてくれる大阪は少々異色だ。戦前に建てられたビルが数多く残る界隈をさっそうと歩く勤め人の姿を見ていると、戦前の大大阪時代の繁栄の歴史に想像が広がっていく。ここでは、あの凡庸なコーヒーチェーン店サンマルクさえ、歴史のロマンを感じさせる(これは、当然といえば当然で、サンマルクの入っているビルは1927年建築の高麗橋野村ビル)。

大規模な再開発が進んでいる梅田や、高級店が軒を並べている心斎橋や、日本一の巨大商店街を擁する天六・天満と異なり、北浜には派手さはない。しかし、盛り場の喧騒からは少し距離を置いた、上品で優雅で落ち着いた魅力がある。一人ぽつねんと街角にたたずんでいても、それが何となく都会的でサマになってしまうような町だ(ま、自分が「サマになっている」一人かどうかは全くの別問題ですが)。早朝、静寂の中を北浜から堺筋本町の方へ散歩するのもよし、昼間、柔らかい日差しを受けながら天満橋方面へ土佐堀川沿いを歩くのもよし、日が落ちてから、なにわ橋のたもとより淀屋橋方面のきらびやかなビル群を望むのも、おもむきがある。

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北浜の駅すぐ近く、堺筋から、高麗橋通りと道修町通りの間の小さな通りを少し西へ行ったところに青山ビルという1921年に建てられたビルがある。ツタのからまる味のある建物だ。以前はここの一階に大阪では有名な丸福珈琲が入っており、僕の好きな北浜スポットのひとつだったのだが、数年前に閉店、前回訪れた時は、キリンケラーヤマトというレストランに変わってしまっていた。がっかりしたが、レトロなビルで歴史に思いを馳せながら飲むビールも悪くはなかった。

追記 北浜のある鉄堺筋線って意外に便利なんですよね。天六にも日本橋にも一本で行けるし、阪急にも乗り入れてるので千里方面、京都方面への接続もいいし。個人的には大阪の地下鉄で一番好きな路線です。