歳月列車

米国での日常、そして、忘れえぬ日本の思い出

大阪夕陽丘

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子供の時分から地図とか電車の路線図とかを見て、まだ見ぬ場所についてあれやこれやと空想するのが好きだった。そんな空想旅行みたいなことをしていると、特に興味を惹かれる名前を持った場所に出会うことがあった。神戸〜大阪のあたりでは、たとえば、阪急宝塚線の「雲雀丘花屋敷(ひばりがおかはなやしき)」なんて、その豪華絢爛な名前を見る度に、一体ここはどんな場所なんだと興味津々だった。実際に訪れたのは、もういい年をした大人になってからだったが、上品で閑静な住宅街でちょっと拍子抜けした。

西宮の香櫨園(こうろえん)も、素敵な名前だなといつも思っていた。こちらは阪神本線の駅で、神戸からもそんなに遠くないので、けっこう早い時期に「ご対面」した。あの界隈は、今でも帰国のたびに散策している。阪急の夙川駅から夙川沿いに香櫨園へと続く遊歩道は、阪神間の典型的な都市空間だと思う。

大阪の夕陽丘もそんな場所のひとつだった。大阪地下鉄の路線図でその名(谷町線の「四天王寺夕陽ケ丘」です)を見て何かびびっと来るものがあり、その後、織田作之助の「木の都」を読んでますます心を奪われた(笑)。

もう何年も前、渡米後の一時帰国の際、実際に行ってみた。寒い寒い12月の午後だった。上町台地と呼ばれるその界隈は、天王寺からも徒歩圏内なのだが、都会の喧騒からは切り離されていて、昔ながらの住宅街が静かに広がっていた。あいにくの曇り空で、町の名の由来である美しき夕陽は見えなかったが、オダサクの生きた時代の大阪を思いながら口縄坂や愛染坂を歩くと、そこに暮らした何百万、何千万という、自分の全く知らない人たちの歴史にまで想像力が巡っていき、何だか不思議な気分だった。ちょうどその前日、神戸ルミナリエで人波にもまれながらギンギラの電飾アートを鑑賞しており、やっぱり人ごみはしんどいなぁと感じていたときで、そんな僕にとって夕陽丘はとても心地よく、いくばくかの鎮静効果があったように思う。

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その後は、例によって例のごとく日本橋まで出て「初かすみ」でお酒とおでんをいただき、北浜の宿へ帰ってぐっすり眠った。いい一日だった。

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