歳月列車

米国での日常、そして、忘れえぬ日本の思い出

フィラデルフィア

フィラデルフィアは、米国東海岸の街で、ちょうどニューヨークと首都ワシントンDCの間に位置する。ロサンゼルスやサンフランシスコやニューヨークやDCと違って、日本の人にはあまり馴染みがないかもしれないが、市域だけでも160万の人口を抱える巨大都市。

かくいう僕もこの街とはあまり縁がなく、初めて訪れたのは1年ほど前だった。といっても、ほとんど仕事で自由になる時間はあまりなかったのだが。

空港を出て電車に乗って街の中心部へ降り立ったとき、最初に感じたのが、わけもない懐かしさだった。初めての場所で懐かしを感じるというのも妙な話だけど、今まで親しく接してきた日本の多くの街と何かしら似ているというか、同じような臨場感を醸し出しているというか、ま、そんな感じです。

これには、この街では、日本の多くの都市と同様、地下鉄を含む鉄道が都市生活の重要な一部を閉めているという事実が大いに関連していたと思う。街の中心に鉄道の駅があって、そこを中心に繁華街が形成され、そして鉄道が都市と郊外を結びというのは、大阪でも神戸でも東京でも、日本の大都市ならごく一般的なことだけど、米国ではこれは例外的だ。米国の場合、1920年代にすでにモータリゼーションを実現し、自家用車の保有を前提とした都市計画がなされてきたので、大都市といえども、鉄道による移動は極めて不便であることが多い。ロサンゼルスなんてそんな都市の典型だ。

それでも、東海岸の古い街、ボストンやニューヨーク市などは、地下鉄が充実していて、フィラデルフィアもそんな街のひとつだ。繁華街――米国の街でいう「ダウンタウン」――で地下鉄を降りて地上へ上がると、そこには、レストランやバー、カフェ、ドラッグストア、コンビニなんかが所狭しと並んでいる。もちろん初めてなので土地勘は全くなかったのだけど、地下鉄の駅+狭い通り+ひしめきあう店、という都市の景観を見ていると、過去に訪れたことがあるような錯覚(既視感?)にとらわれて、直感でどんどん街歩きできそうな気分だった。

ちょうどその週末は、元同僚も仕事でフィラデルフィアに来ており、では夕食でも、ということで6、7年ぶりに再会した。待ち合わせ場所まで地下鉄に乗り、壮麗なフィラデルフィア市庁舎を横目に見ながら予約しておいたレストランまで歩き、食後はちょっと歩いて小綺麗なバーで軽く1、2杯やりながら、一緒に仕事をしていた当時は話せなかった色々なことを語り合い、酔い冷ましに少し散歩して、元同僚にさよならを言って、ホテルまでまた地下鉄で帰った。こんなこと日本の街ならごくごく普通にできることなんだけど、米国のほとんどの街(自分の住んでいる街も含めて)では、車の運転が必須なので、自分が運転手だと酒は飲めないし、もう1軒行くか、という雰囲気にもならない。なので、これはとても貴重な体験だった。

仕事を終えて帰宅する日はちょうど日曜、フライトは午後だったので、早朝ダウタウンをあてもなく散歩した。レストラン・バーの密集するエリアの路地裏にはゴミが散乱していて、いかにも土曜の夜の「宴のあと」という感じだった。こういう都会的な風景を見ていると、大阪の堂山とか東京の新宿2丁目、3丁目なんかを思い出して、やはりここでも何だか懐かしい気分に浸ってしまった。