歳月列車

米国での日常、そして、忘れえぬ日本の思い出

ハーバーランドとメトロこうべ、今昔

早朝のハーバーランドです

5月に日本へ一時帰国したとき、JR神戸駅近くのホテルに一泊した。普通なら実家に泊まるので神戸で宿を取ることなんてないのだけど、今回はやむを得ない事情があった。せっかくなので三ノ宮か元町あたりで泊まれたらと思ったが、直前の予約で空室のあるホテルがほとんどなく、あったとしてもかなり高額だった。夜11時に着いて翌朝8時にはチェックアウトする予定だったので、そのために金をかけるのも何だかアホらしくて、結局、例のJR神戸駅近くのホテルに落ち着いた。

日本へ来てすでに4日ほど経っていたが、まだ時差ボケが治っておらず、翌朝は5時前に目が覚めた(といっても、普段から5時半ごろには起きているのですが)。前日コンビニで買っておいたおにぎりや味噌汁やらで朝食を済ませ、早朝の散歩に出かけた。ホテルからちょっと海側へ歩けば、ハーバーランドだ。ちょっと潮の匂いを含んだ海風が心地よく(ちょっと肌寒いくらいだった)、神戸へ帰ってきたことを実感した。今、住んでいる米国の街には近くに海がないので、ときどき無性に海や海にまつわるあれこれ、例えばフェリーや霧笛やなんかが懐かしくなる。

考えてみると、ハーバーランドへ行くなんて何年ぶりだっただろう。近所の新開地や楠公さん(=湊川神社)へ足を運ぶことはあっても、ハーバーランドまで行くことは、近年ほとんどなかった。ハーバーランドって、いかにも若い恋人たち、若い家族連れをターゲットにしたお店が多くて、どこもちょっと敷居が高い。自分のような中年オヤジの一人歩きは、浮いてしまうような気がするのだ。しかし、その日は早朝だったので、開いている店はないし、釣り人と走り人をのぞいてほとんど誰もいないしで、変な劣等感や自意識(?)にさいなまれることなく、快適に散歩できた。

それにしても、この30年ほどでJR神戸駅周辺はすっかり様変わりした。神戸市内の中でも最も変貌した風景のひとつではないだろうか。僕がまだ小さな子どもだった時分、ハーバーランドなんていう立派なものはまだなかった。神戸駅といえば、元町商店街と元町高架下(モトコー)の最果てで、めぼしいランドマークはなくて、三ノ宮や元町のようにわざわざ出かけていく場所ではなかった。雰囲気としては、どちらかといえば、新開地の延長みたいだった。神戸の中心駅であるはずの神戸駅はなぜかくも廃れているのか、と子供心に不思議だった(色々な歴史的理由で、戦後、神戸の中心が東へ、つまり、三ノ宮へ移ったことは、もっと後になって学ぶことになるのだが)。

が、1992年、神戸駅の海側、貨物駅と工場の跡地にハーバーランドなるものができた。僕はまだ大学生で、まだオープンして間もない9月のある土曜、ちょっとデートみたいな感じである女性と初めて訪れたのだが、あのときのことは今でもよく覚えている。レンガ倉庫街やモザイクを歩きながら、新開地や神戸駅のすぐそばにこんな洒落たものができたのか、この辺りもこれからどんどん発展していくんだな、とけっこう感動ものだった。

あれから、バブル経済が弾けて、震災があって、日本経済が停滞して、人口減少が始まって、と神戸にとっては受難の時代であったが、神戸駅及びハーバーランドは、紆余曲折を経ながらも、三ノ宮、元町に次ぐ第3の都心の核としての地位を維持しているようだ。神戸を愛する自分としては、これは素直にうれしい。

ハーバーランドの繁栄ぶりと対照的なのが、メトロこうべだ。これは、JR神戸のすぐ山側にある高速神戸駅から新開地駅まで続く地下街。こちらは、僕の大好きな新開地に直結しているので、一時帰国するたびに歩いているが、往年と比べると随分さびしくなったな、というのが正直な感想だ。新開地と高速神戸、それぞれの駅周辺は今でもそれなりに賑わっているが、その中間の地下道は、改修が施され以前のような薄暗さがなくなったとはいえ、卓球場を残して何も残っておらず、もうこれは「地下に敷設されたただの通路」と呼ぶしかない。僕が子供の頃は、この地下道には古本屋がたくさんあって、本好きだった父に連れられてよくここへ来たものだが、今はその面影すらない。

このブログは、神戸と阪神間が好き、日本が懐かしいみたいなことを徒然に書き連ねるのが目的で、行政に苦言を呈したり提言を行ったりする意図は全くないのだけど、神戸の中心部、すなわち、中央区及び兵庫区には、メトロこうべに限らず再開発から取り残されてしまったような場所がけっこうある。しかし、メトロこうべなんて、新開地、高速神戸、JR神戸に近接する交通至便な場所で、しかも、新開地からハーバーランドまで1キロ以上に渡って続く地下街の一部なのだから、商業施設に対する潜在的需要、大規模な再開発の余地はたっぷりあると思う。神戸では今、三ノ宮への一極集中が急速に進んでいるようだけど、メトロこうべのような場所も忘れないでほしい。と、まぁ、これは新開地好きの中年オヤジの独り言です。

現在のメトロこうべ