歳月列車

米国での日常、そして、忘れえぬ日本の思い出

東京四谷

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長く閉ざされていた日本の国境が、3月になりようやく開き始めた。アメリカからなら、ワクチンのブースター接種済で到着時の待機期間なしとのことで、少しは一時帰国がしやすくなった。2年以上帰ってないので、もうそろそろ帰らねば。そんなわけで、今日、初夏の日本行きの航空券の予約を済ませた。出発までにはまだ3ヶ月ほどあるのだが、これからは、こっちにいる間の仕事の調整でいろいろ忙しくなるが、こういう忙しさなら歓迎とは言わないまでも、許容できる。

月給取りの宿命で、一時帰国といっても、半分は仕事なので自由になる時間は限られているのだが、それでも、夕暮れを待ち、好きな店で軽く燗したお酒を飲みながら、夏ならお刺身、冬ならおでんを食べていると心地よい気持ちになり、浮世の憂さもほんの少しだが忘れられる。

パンデミックが始まるまでは、初夏と年末、年に二度は一時帰国していた。20年前に渡米した頃は、関空と北米諸都市の直行便がけっこうあって、一時帰国にも困らなかったのだが、その後、多くの路線が廃止になり、ここ十年ちょっとは、まずは東京へ飛び、そこで仕事を片付けて、それから関西へ向かうという旅程を繰り返していた。

東京ではもう何年も四谷に宿を取っているので、僕にとって四谷は東京滞在の拠点であり、したがって、この界隈にはとても強い思い入れがある。まず、四谷の町自体が、自分のような旅人に非常に親切にできている。コンビニも酒場もクリーニング屋もスーパーも駅周辺に集中していて、昼間歩きづめで夜はあまり出歩きたくない、というようなときでも困らない。

また、四谷周辺は散歩にも理想的な場所だ。通勤・通学の混雑が始まる前、早朝の日差しを浴びながら外濠公園を市ヶ谷方面へと歩いていると、良き一日となりそうな予感に包まれる。

四谷には、酒場も無数にある。中でも、角打ち鈴傳は特にお気に入りで、よく通っていた。お酒の種類が豊富なのに加えて、派手さはないものの家庭料理を思い出させる素朴な料理もよい。相方も大好きだし、一度、アメリカ人の友だちを連れて行ったときはいたく感動された。僕にとって、あのような小さな空間で全くの他人同士がひしめきあって楽しそうに呑んでいるという風景は、都市生活の醍醐味であり、アメリカにいて最も懐かしく思う日本の街の風景のひとつでもある。

しかし、航空券を予約したといっても、世の中を見渡してみると、コロナが完全終息したわけでもないし、戦争の激化もあるしで、あまり楽天的な気分にもなれない。昔のように、自由に平和に国境を超えて旅をできる時代が今一度やってくるのか不安でもある。

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近所の桜も少しつづ開き始めている