歳月列車

米国での日常、そして、忘れえぬ日本の思い出

ワシントンで帰宅困難者となる

私用でワシントンDCに行った。たいていは車で行くのだが、今回は一人だし、先の日本滞在中に列車旅の良さを再確認したこともあって、アムトラック(Amtrak、アメリカの国鉄です)で行くことにした。

気軽な日帰り旅のつもりで、朝、家を出、ワシントンで用事を済ませて、昔の同僚と早めの夕食を取り、さて帰ろうと、ユニオン駅へ行ってみると、ほとんどの列車が遅延か運休になっている。ちょっと前に夕立があったのだが、そのときの雷が原因で停電が起こり、ワシントンとその近辺にいる列車がすべて立ち往生しているらしい。自分の乗るべき列車も、「Delay(遅延)」となっているが、どのくらいの遅延かは全くわからない。窓口で聞いても、知らん、新しい情報が入れば電光掲示板に出るから、それを待っていろと、おざなりの返答だ。こういういい加減さは、非常にアメリカ的だ。

この時点で、我が家へ帰ることはきっぱりあきらめた。遅延、遅延、と待たされた挙げ句、結局は運休になることが予想されたからだ。こんなとき、日本なら、鉄道会社が代替輸送の手段を確保したり、乗客の方も鉄道会社から何らかの助けがあるのを期待するのだろうけど、アメリカの場合、公共の交通機関に対する信頼がそもそも著しく低いので、こんなことになっても、皆けろっとしていて、全然悲劇的ではなく、あ、そう、という感じで、すぐにあきらめて駅を後にしていく。

そんなわけで、自分も帰宅困難者になってしまった。アメリカに来て初めての体験だ。車で来なかったことが悔やまれた。しかし、家には相方がいるので、柴犬くんの心配をする必要はない。心を切り替えて、ワシントンで一泊することにした。まず、スマホでホテルを予約した。ユニオン駅の構内には、ユニクロがあるので、ここで下着とTシャツを購入(これは本当に助かりました)、地下のドラッグストアで、コンタクトの洗浄液や歯ブラシやなんかも買って、地下鉄でホテルへ移動した。現在のアメリカの都市部の物価上昇は異常で、ホテル一泊、税込で300ドル近くもして、予期しない出費となった。

ま、そこは悔やんでも金が戻ってくるわけでもないし、せっかくの金曜でもあるので、ホテルにチェックインしてから、またちょっとお出かけして、近所のバーで軽く飲んでから、部屋に戻り、持ってきていた本を読んだり、「ふきのとう」を聞いたり、北浜と四谷の定宿を思い出したりしながら寝落ちした。翌朝は、相方おすすめのカフェで朝ごはん食べて、涼しいうちにホテルの近所を散歩して、部屋に戻って二度寝して、昼すぎの電車に乗って帰宅した。帰りの電車も、また「遅延」だったのだが、20分程度の遅延であったし、アムトラックに遅延はつきものなので、それは想定済みであった。

こういう体験は、できればもう二度とごめんだが、思いもかけず、丸一日以上仕事から強制的に切り離され、ラップトップも開けず、Eメールに返信もせず、ダラダラすることができたのは、怪我の功名というべきかもしれない。ま、こういうポジティブな考え方をしないと、予期せぬことの多い異国暮らし、やっていけませんからね・・・。